国際交流ワークショップB

日本3日目(多摩平)

History of Japanese Public Housing Complex

日本の郊外団地が抱える近年の状況とUR都市機構による再生の取り組みについて、東京都日野市多摩平団地の再生事業をケースにフィールドワークや講義を通して学び、議論を展開した。フィールドワークでは、URが抱える老朽化や施設の陳腐化した住宅団地を民間活力と既存ストックを利用し、コミュニティガーデンや学生用シェアハウス、バリアフリー等を導入している試験的な取り組み等を見学した。

郊外住宅団地の課題

 日本の住宅団地は、時代の変遷とともにその役割が変化してきた。国は、戦後や高度経済成長の住宅不足を解消するために、1955年に日本住宅公団を設立し住宅供給を開始した。この、1955-1974年に整備された住宅団地は、住宅の大量供給が目的のため、郊外部に大規模な住宅団地を建設し、画一的な住宅を整備することでその役割を果たしてきた。しかし、1975年以降、住宅供給が需要を満たすようになると、住宅団地はその量よりも質を高め、居住水準を向上させる役割を担った。更に高騰した住宅・宅地価格と供給地の郊外化、通勤時間の長時間化によって、大都市圏の住宅・宅地供給は低迷期を迎え、この時期から総合的な居住環境づくりへと転換していくこととなった。

また近年では、1955年以降に大量に供給された郊外団地取り巻く問題として、人口減少・公共財源の不足と不景気・震災のリスク・多様なライフスタイルとのミスマッチといった課題が生じている。特に、郊外団地ではバリアフリー化がされておらず高齢者にとって住みにくい住環境となっている。同時に、居室についても若い世代によっては狭く、入居しづらいものとなっている。このように郊外団地は、老朽化や社会の二―ズとのミスマッチにより、社会構造や市場ニーズを踏まえた適切な再生が必要とされている。

 

説明の様子

グループワークの様子


多摩平団地

 多摩平団地(建替え後は「多摩平の森」)は東京都日野市にあるUR 団地である。昭和30 年代初頭(1955年頃)の都市部への人口集中を緩和するために、都市機能を周辺の都市圏に分散させ、地方において新産業都市を育成し住宅需要の分散化を図ることで、住宅の大量供給を実現する「衛星都市」の整備が始まった。その最も早い事業の一つが「豊田地区土地区画整理事業」で、その一部として多摩平団地が誕生した。当時の多摩平団地は、周囲の農村風景と異なり、碁盤目状の区画が整備され緑が多く配置された快適な住環境であった。比較的所得の高い中堅サラリーマン世帯が住むことのできた先進的な住宅であったため、公団住宅に住むことは憧れであった。総戸数約2,800戸の大規模団地で、都心から30kmの郊外部に多くの居住者が生まれた。

建替え後の航空写真


建て替え事業

住宅・都市整備公団が1986年に建替え事業を開始したのを契機に、多摩平団地においても建替えの検討が行われた。1987年に住民組織の「建替え問題対策委員会」が発足したのをはじめ、地元の日野市や公団側の説明会、建替え調査等を経て、1996年に建替え三者勉強会が発足した。これは、地元住民、日野市、公団の三者による建替えの勉強会で、「建替え制度」「街づくり」「住まいづくり」に関する様々な課題を解決するために、話し合いを重ねてきた。また、単なる三者による話し合いだけでなく、テーマによっては住民と日野市、住民と公団の二者による話し合いや、立場をこえて考え方を共有できるようにバス見学会やワークショップ等、視点や手法を変えた活動も並行して行ってきた。

 

建替え事業は第1期から第3期まであり、既に第3期まで建替えが行われた。建替え事業は、従前の住棟を解体し、新たな住棟を建設するスクラップ・ビルドの方式が採用されている。第13期の建替えで従前の住棟はすべて解体され、高層の新たな住棟に建替わっている。その高層化により、従前団地であった場所が事業用地として創出されている。多摩平の森では、その事業用地が、ショッピングモール、戸建て住宅、施設用地といった他用途へ土地利用転換が行われている

 また現在では、多摩平の森地区において高齢化が顕著となっており、高齢者だけの世帯・独居の高齢者も非常に多くなり、住民活動の継続等と合わせ、安心して住まい続けられる環境の整備の必要性が高まり、公共公益施設の整備が計画されている。計画では、医療・福祉系の施設を中心に、市立病院と連携し〝多世代が賑わい、安心して住み続けられるまちづくり〟を推進するため、地域に必要なサービス機能を集積させ、医療・福祉施設の誘導と合わせ、賑わいや活性化、多世代の交流を誘導する商業文化機能や、学習・人材の育成と地域活動を促進する生涯学習・地域交流機能が複合的に連携する施設整備の誘導を目指している。

新たな取組み:『地域医療福祉拠点』として団地の役割

ルネッサンス計画

ルネッサンス計画は、多摩平団地の団地再生事業に伴い空家となった一部を対象とし、試験的な取り組みとして、5棟の建物だけを民間事業者三者へ1520年間建物賃貸し、各事業者の企画・設計により改修工事を行い、民間の賃貸住宅等として活用している。

■りえんと多摩平(団地型シェアハウス)

 『りえんと多摩平』は既存住棟の躯体を活用し、屋根防水、外壁の補修等をした上で、3Kの居室を3個室に改修している。31ユニットとなっており、男女別にユニットが並んでいる。家具付きの個室では、プライバシーをしっかり確保しながら家電やキッチンが揃えられた共用部を中心に、快適なシェア生活をすることができる。なお、各ユニット以外にも共用のキッチン、ラウンジ、シャワーブース、ランドリーコーナーなどもあり、多世代が交流しながら生活出来る環境が整っている。

 

AURA243 多摩平の森

 『AURA243 多摩平の森』は多摩平団地のゆとりある団地環境を活かし、貸し菜園と専用庭群を併設した住宅となっている。土いじりを通して世代を超えた人々とのつながりを感じられる住環境というのがコンセプトである。ゆとりある団地の特性を活かし、貸し菜園「ひだまりファーム」、小屋付きの貸し庭「コロニーガーデン」、住人や地域のイベントを開催できる「AURAハウス」等を併設した賃貸住宅となっている。

 入居ターゲットは20代からシニア層までの2人暮らしである。1階は約50 m2の前庭に玄関のある「ヤードハウス」となっており、専用庭が付いている。2階から4階は約15畳のリビングダイニングを中心とした1LDKの「ひなたぼっこハウス」として整備されており、住棟に併設された菜園や庭をレンタルし、アウトドアな趣味や子育てを自然の中で楽しむ暮らしを提案している。

■ゆいま~る多摩平の森

 『ゆいま~る多摩平の森』は、自分らしい生活スタイルを守りながら、いざとなったら心身状態に応じたサポートを安心して受けられる24時間365日スタッフ常駐の高齢者向けの住まいを提案している。 主な用途は高齢者専用賃貸住宅(32戸)とコミュニティハウス(31戸)、小規模多機能型居宅介護施設、食堂兼多目的室となっている。既存住棟の改修に加え、小規模多機能型居宅介護施設部分と食堂兼多目的室の部分は増築を行っている。また、食堂は入居者だけでなく誰でも利出来、地域の交流の場としての活用も期待される。

 介護サービスに関しても地域の拠点となるよう地域に開かれた施設整備が行われている。今回の整備ではこれまで高額な家賃がネックとされていた高齢者向け住宅建設において、既存住棟を活用することによってその建設費を約7割に抑えている点が特徴である。